「自己決定力」を育む ~パラシュートに乗らないという参加のあり方も尊重したい~

パラシュートは、ムーブメント遊具の代表でとても魅力的な環境づくりに役立ちます。

(パラシュートの活用例については、以下の記事をご覧ください。) 

 ムーブメント遊具の活用法~パラシュート編~(2010/11/04)

satsuki-lab.hatenablog.com

 

中でも、パラシュートの上に子どもを乗せて揺らす活動は、

ダイナミックで、笑顔が溢れる楽しい場面になります。

気持ち良さそうに寝そべっている子、

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集中した表情でバランスをとって立ち上がろうとする子、

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細かく跳ね続ける子、高く高く飛び上がる子・・・、

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子どもの発達段階や好みに、回りの人たちの力加減もその場で適用して、

一人ひとりにあった揺れの活動をつくり出すことができます。

子どもたち一人ひとりの笑顔に周りの大人たちも誘われて笑顔になります。

初めてだったり、まだ小さかったりで、

「乗りたいな、でも、ちょっと怖いな..」という表情で、

自分からパラシュートの中に入ってこない子の場合は、

大きく揺らすのではなく、真ん中に座って乗ってもらって、

地面に着けたまま左右に揺らしたりすることから始めて、

揺れに少しずつ慣れてもらうこともできます。

ママに抱っこしてもらって一緒に乗ると、

子どもはもちろんママの方がきゃっきゃっと喜んでとびきりの笑顔になります。

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特に多動の傾向が強く集団活動が苦手なお子さんの中には、

このパラシュートのダイナミックな揺れの活動が大好きで、

そこから、順番を待つことや小さい友達に対する思いやりなど、

社会性を育む機会に発展することがあります。

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どんなタイプのお子さんでも楽しむことができるし、

みんなが一緒に関わってハッピーな気持ちを共有しながら、一体感を感じられるので、

集団プログラムでは、ラストの「盛り上がり」の場面で活用されることが多いのです。

ただの大きな丸い布ですが、

集団の力で、遊園地の遊具施設にも負けないほどのダイナミックな展開や

一人ひとりのニーズに合った「乗せ方」が可能になります。

ムーブメントの理念、「笑顔が笑顔を呼ぶ好循環」を表す象徴的な場面になります。

  (だから、本の表紙のイラストにもなっています♪)

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さて、前置きが長~くなりましたが・・・、

今日お伝えしたいのは、そんな魅力的な遊具、パラシュートの活動の中で、私があらためて考えたことです。

 

発達障害児とその家族を対象としたある現場でのこと、ムーブメント初体験の親子が多かったのですが、やはり、このパラシュートの揺れの活動は大盛り上がり!

それまで、集団の中で楽しそうに過ごすことがなかったというお子さんが声を出して大喜びする様子に、顔を見あわせて嬉し泣きするお母さんと支援者の方もいました。

1,2歳の小さいお友達もママの抱っこで乗ってもらって、穏やかに揺らしてもらい、いい笑顔を見せてくれました。

 

あの子もこの子もみんな笑顔で楽しめた!すごいすごい!という盛り上がりの中、

小学校高学年のある男の子に順番が回ってきました。

母親や多分その子に関わってきたであろう支援者は、期待でいっぱいの表情です。

でも、その男の子は首を「イヤイヤ」とふって乗らないという意思表示をしました。

一旦、順番をとばして、他のお子さんを乗せて、再度尋ねましたが、乗ろうとしません。

怖がっているようには見えなかったのですが、念のために、じゃあ、小さいお友達がしたように、座ったまま優しい揺れで乗ってみようかと誘いましたが、やはり、首を振りました。

周りの大人も何とか他の子がみんなが体験した活動を彼にも・・・という強い想いで、誘っています。

そしたら、彼がはっきりと力強い声で「今日は乗らない」と言いました。

私は、すごく、すっきりして、「そっか、了解!」と言いました。

「えっ?乗せないの?」ってちょっと残念そうな表情をする大人も居て、正直、もうちょっと強引に誘ってもよかったかな~と、ちょっと気持ちが揺れてしまいましたが、

その前も後も彼がパラシュートを持って楽しそうに揺らし、ずっと笑顔だったので、やっぱり、それでよかったと思いました。

 

私は、クリエイティブなムーブメントの良さは、その子なりの表現、その人なりの参加の仕方が尊重されることが可能で、「みんな違っていい」と「違うけれど、みんな一緒なんだ」を感じる体験を提供できることだと考えて、取り組んでいます。

 

そして、特に、発達障害のある子どもたちとのかかわりの中で、「自己決定」の場面を大事に設定したいと考えるようになりました。

発達障害のある子どもたちの場合は、日々の生活の中で、失敗経験を重ねてしまいがちで、その中で、「どうせやっても自分ではできないから」と意欲や自信を無くし、結果的に、能力を発揮することを怖がったり嫌がったりして、悪循環に陥ってしまい、次第に指示待ちになったり、他者の決定に依存したりする傾向が多くみられるようです。

それが、表面的な問題行動の減少ゆえに、「社会的な適応」という形で評価されてしまうことの怖さもあります。

 

ムーブメントは、遊びの活動を基本とし、「~させる」ではなく、本人の「~したい」を大事にします。

誰かに命令されたり、指示されたことは、もはや「遊び」ではないのです。

 

子どもの「自己決定力」を育むためには、自己決定にかかわる内容について十分な情報と発達段階に沿った選択肢の提供が重要になるでしょう。

 

ムーブメントリーダーの『質問力』

-遊び活動における「クローズドクエスチョン」と「オープンクエスチョン」の活用(2012/08/18)

satsuki-lab.hatenablog.com

 

の記事でもお伝えしたように、

 子ども一人一人の発達段階や個性に適した形で、遊具や音楽や人同士の関係をアレンジして魅力的な遊び環境を創り出し、子どもの「からだ・あたま・こころ」全体に問いかけ、主体的な動きや表現を答えとして引き出す力が、ムーブメントリーダーには求められますが、これは、言い換えれば、遊びの中で、子どもが自分で選んだり、決定したりして、自らの力で遊びの環境を創っていく体験を提供する力となるかもしれません。

 

「パラシュートに乗る」という活動は、ダイナミックな揺れの刺激で身体運動能力の発達を促進します。集団プログラムでしか体験できない貴重な活動でもあります。

けれど、ムーブメント教育・療法の究極の目的は、「健康と『幸福感』」の達成です。

青年期、成人期までの発達の流れを考えたとき、「幸せ」の価値観は一人ひとり違うけれど、「幸せ」になるために、「自分で決める」という力は、「自分の人生を生きる」力の源で、全ての子どもたちに必要な力だと思います。

そう考えると・・・、

「パラシュートに乗らない」という形で参加することを決めた個人の意思を、まず受け入れることも大事なのだろうと思います。

 

単発の公開教室でしたから、彼が「『今日は』乗らない」と言ったことに対して、『次は』の機会が約束されていたら、リーダーの私にも周囲の大人たちにも、もっと心の余裕」があっただろうと思います。

 

だから、子どもたちの生活の基盤となる地域や学校や保育園等の環境下で、無理のない自然な形で継続的な取り組みとして、生活の一部として、ムーブメントによる遊び活動が展開されることが重要だと考えます。

 

「ゆっくり、楽しく」・・・ですね。

 

そのために、できることを引き続き考えていきたいと思います。

ずっと考えていたことを久しぶりのブログに書いて長くなってしまいました。

最後まで読んでくださってありがとうございました。