診断・評価は「個人の尊重」のためのに -あらためてFrostigの理論から学ぶ-

 3月3日に、卒業生が代表をつとめるNPO法人主催の研修会に講師としてよんでもらいました。CMDゆうゆうは、神奈川県相模原市を拠点にムーブメント活動を活かした障害児支援や子育て支援に取り組んでいます。この日は、相模原市 市民・行政協働運営型市民ファンド「ゆめの芽」平成24年度の助成を受けての開催とのことでした。

 親子ムーブメントの実践と講義の2本立てで、私は、ムーブメント教育・療法の基本理念や家族支援のポイント、そして、みんなで創造的な遊びの場を創ることの大切さ等をお話させてもらいました。子どもたち一人ひとりが見えてくる創造的な遊びの場に参加でき、また、卒業生の活躍の様子を実感でき、とても嬉しいひな祭りの日でした。

 

 でも、私にとって大事な気づきは、事前の準備段階からありました。 内容や実施方法について打合せする段階で、参加予定の子どもたちの情報を教えてほしいとお願いしましたら、1歳から小学校5年生までの十数名の子どもたちの様子が細かに報告された返事が届きました。 文字数としてはそれぞれ100字にも満たないのですが、でも、一人ひとりの様子が本当に活き活きと伝わってきて、読んだだけで会うのが楽しみになりました。 もちろん、発達障害の診断を受けているお子さんについては、診断名もきちんと記してありましたが、それ以外のところに、これまで継続して活動してきたからこその、現場主義のムーブメントリーダーの「まなざし」が感じられ、素直にすごいなって思いました。

 研究調査や療育相談等通して発達障害児に関わる大人達は、子どもの年齢と性別と「障害名」をまず聞いて、「アスペルガー」「高機能」「PDD」「ADHD」と細かい分類名や発達検査の数値で情報を得てそれで全てを分かった気になってしまいがちです・・・ね。それって大きな間違いだと、教え子に、あらためて教えられた気分です。

 

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ムーブメント教育・療法の祖 Frostigが論じていることを紹介します・・・♪

 Frostig,M.(1976)Education for Dignity.Grune & Stratton, Inc.(伊藤隆二・茂木茂八・稲浪正充(訳)(1981)『人間尊重の教育-科学的理解と新しい指針-』,日本文化科学社より 

 

 Frostigは、子ども一人ひとりに適合するための個別化された教育プログラムが必要であると唱えました。ですから、そのために、子どもの発達段階を視知覚、聴知覚、運動技能、認知、言語などの面から観察やテストバッテリーで正しく把握することを重視し、精緻なアセスメント開発に精力的に取り組みました。

 しかし、人間に対する「ラベル付け」や「カテゴリー化」については、厳しく批判しているのです。 困難を抱える子どもたち一人ひとりに原因と症状があり、一人ひとりに個別の対応が必要であるという考えから、教育において、子どもを分類し分離することは不可能であると論じています。

 子どもたちを分類することによって、カテゴリーに一致しない症状が見落とされ無視される危険性を訴え、どのような場合においても、子どもたち一人ひとりの発達において、「全ての面」を考慮に入れる必要性を論じています。 さらには、子どもに対するレッテル貼りが不必要な違和感の原因となり、親の不安や教師の悪い先入観につながる恐れもあることも指摘しています。

 ですから、診断や評価は、決して、子どもたちを分類するためでなく、子どもの現状や特性についてより深い理解と知識を得て、最適の教育計画を確立するためになされるべきであると論じています。 小林芳文らが開発した日本のムーブメント独自のアセスメント「MEPA」もまさにこの考え方に基づいています。

 *詳しくは、こちらの記事をご参照ください。

  遊びを生み出すアセスメント~MEPA-Rの活用~(2012/7/25)

 

 また、子どもの発達を考える際、人が環境や他者と互いに影響し合っているという相互作用の視点を常に持つことを重視しています。 それは、Frostigが、人は一人ひとりユニークな存在であると捉えるからこそ、「環境の意味は一人ひとり違う」と、個人を取り巻く環境との相互関係におけるいろいろなつながりの構成要素をできるだけ詳細に正確に表そうとする試みを続けてきたことに通じます。

 実際、Frostigは、学習障害の子どもの療育のために、感覚-運動や知覚面の細かい診断にあたりながら、常に子どもの生活の全ての局面を考慮に入れる必要性を説き実践していました。 包括的に全体を見るということは、「曖昧」にとらえるということではなく、「個人の尊重」のために、子ども一人ひとりを「個別化」し、そして、「全体」としてとらえることを重視していたのです。

 

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 ムーブメント教育・療法は、発達支援法です。これまでの研究実践のおかげで、障害の特性や発達段階に応じた環境づくりのための方法論が豊富です。 けれでも、それらは全て「ツール」でしかないのだと私は思います。 ムーブメントリーダーは、「誰のために」「何のために」そのツールを活用するのかを見失わないようにしなければなりません・・・。

 充実したムーブメントによる遊び活動の現場では、自然と、「自閉症の子どもは・・・」と障害名を主語にして話すのではなく、「○○君は、」「○○ちゃんは、」と一人ひとりを主語にして話すことを大事にしていると感じています。 今年度は、サバティカル制度を利用して、発達障害児の家族や支援に関わる方々と沢山お話させていただきました。

 特別支援教育が始まってここ数年の間に、「診断」が強く求められるようになりました。けれど、診断の先にある具体的な支援の取り組みは、質も量も不足しているのだと、現場の声を聞くたびに痛感します。 診断・評価は、単なる分類やラベル貼りのためではなく、「個人の尊重」のため・・・というFrostigの論を大事に、考えていきたいと思います・・・。

 

  長い文章を読んでくださって、ありがとうございました