遊びがいっぱいの大きな家(乳児院での遊び活動支援)

  本年度のサバティカル研究活動の大事なフィールドの一つは、ある乳児院です。心理療法担当職員の臨床心理士の方から、乳児院の子ども達を対象に実践をやってもらいたいとの連絡をいただいて、2011年3月に学生達と共にうかがったのが最初のご縁でした。

 障がい児も含む1~4歳までの30名程の子ども達と10数名の職員の方々と一緒に、その年度にちょうど相模原市子育て支援事業で練り上げて完成度の高まっていた「タオルでできるドラマムーブメント!★親子の魔法使い★」をもとにしたプログラムを実施しました。(プログラムの詳しい解説は、小林芳文・大橋さつき著『遊びの場づくりに役立つムーブメント教育・療法明治図書出版、p.95~を参照ください。)

f:id:satsuki-lab:20220407171723j:plain

www.meijitosho.co.jp

 はじめての実践はあくまで単発の企画でしたが、そのとき、子ども達の活き活きした様子に対する驚きや職員の方自身の「楽しかった」という気づきがそのとき確実に生まれていたようで、その後も、「また、ぜひ・・・」とご縁が繋がることになりました。

 子育て支援や障がい乳幼児支援でのお仕事や、また保育士の先生方との関わりはそれ以前にも多く持っていたのですが、恥ずかしながら、私、このご縁で初めて「乳児院」という施設のことを詳しく知りました。

f:id:satsuki-lab:20220407172753j:plain

 乳児院は、児童福祉法に基づく認可施設で、様々な事情から家庭で暮らすことができなくなった 0歳から就学前までの子ども達を保護者の代わりに預かって24時間体制で世話をするところです。

 様々な事情というのは、例えば、保護者の離婚や別居、病気、入院、出産、家出、死亡などで子どもの世話ができなくなったとき、経済的な事情や、家庭環境に問題があって子育てができないとき、家族が病気や事故で入院し、付き添わなければならなくなったとき、育児に不安があるとき・・・など、本当に「様々」で、一時的に預けられる子もいれば、生まれたときからずっと・・・という子もいるようです。

 乳児院では、保育士、看護師、心理士など、専門のスタッフの方々が、家庭に近い環境を大事にしながら、一人一人の子どもを育み、同時に家庭復帰や里親委託ができるよう専門機関と連携しながら親子関係、家族関係の再構築に向けて保護者支援に臨んでいます。

   しかし、様々な事情から、乳児院を出た後も児童養護施設などに生活の場を移す子ども達もいるのだそうです。

  「乳児院」という場を知れば知るほど、子ども達も職員の方々も独特の事情を抱えて生活し、仕事されていることが解ってきました。

 子ども達にはそれぞれに様々な背景があり、発達に遅れがある子もいますし、問題行動を起こす子もいます。子ども達に親代わりの担当職員がつきますが、やはり1対1の対応は不可能です。また、どんなに愛情をもって育んでもあくまでいずれは巣立っていく子ども達で、家庭復帰や里親との新しい関係を築くことを期待されています。

 24時間の養育を可能にするためには、職員の方々のシフトは不規則で仕事外のプライベートな生活との両立においても難しい面があると思われます。

 そんな中で、ムーブメントで乳児院の中で遊び活動をもっと充実させたいと積極的に取り組むことを考えてくださった方々の共通の願いは、子ども達の「自己肯定感」を育みたいということ、自分が愛されるべき存在なのだと確信して、乳児院で育ったことを誇りに思って巣立っていって欲しい・・・ということでした。

 その想いを受け、私は、私が出向いて実践をやるのももちろん本望だけど、皆さん自身でやってみませんか・・・と提案しました。

 そして、サバティカルの時間を活用して本年度、施設内研修に取りかかることになりました。 5月には、「遊びの場づくりを支えるムーブメントの考え方~明日から役立つ18のポイント~」について学びました。6月は、遊具の活用について実技を行いました。今月は、より発達段階に適した活動が展開できるようにアセスメント法の活用として、MEPAを使えるようになってもらう予定です。

f:id:satsuki-lab:20220407172820j:plain

 職員の皆さんが熱意をもって、そして、子どものように楽しんで学んでくださる姿に、私も励まされる想いです。研修の日届いた遊具を早速開けて「今日、お風呂あがりに使ってみたい!」と持ち出したり、「物置にあるアレとかコレとか使えるんじゃない?」と相談したり、取り組み方が積極的だけど無理なく自然でこちらもほっとした気分になります。

 研修後、感想や質問などを記入したふりかえりシートが届くのですが、乳児院の生活の中に遊び活動が少しずつ確実に広がっているのが解ります。笑い声がこちらまで伝わってくるようで読んでいて嬉しくなります。

 最近、私も職員の先生方も、遊びの場の深まりと比例して、困難だらけと感じていた乳児院という環境を逆にプラスに捉えることができるようになってきました。

 一人のお子さんの近況や性格、興味関心に対して、全ての先生方が語り合っている姿を見ると、これほど複数の大人達が一人一人の子ども達に責任を持って24時間関わる場はないなぁと思います。

 子ども達が兄弟以上に密に関わりながら朝から晩まで互いに刺激を受けています。  お風呂上がりにちょっと遊ぼうかってタイミングでこんなに広い部屋でしかも集団で遊べる家族っていないと思います・・・。パラシュートやプール遊びもできるお庭もあります・・・。

 最近、益々、遊びは生活の中で自然な形で行われるべきという考えを強めていますが、集団によるムーブメント活動と家庭での取り組み(ファミリームーブメント)の連携は大切な課題です。

 その点から考えると、乳児院には、恵まれた条件、環境がたくさんあるのです。もちろん私が想像する以上に深刻な問題も多々あるのだと思いますが、都会の核家族には絶対できない、乳児院という大家族だからこそ成り立つ遊び活動が毎日展開できるんじゃないかと期待をもって取り組んでいます。

 子ども達の乳児院での暮らしの記憶が楽しかった遊び体験のことでいっぱいになるといいな~と、これからも職員の先生方と一緒に取り組んでいきたいと思います。